PEOPLE

「人との繋がりの輪の中で、必要な人となる」 NEXTPLACE 葛西 辰彦(代表)

令和元年。平成から令和へという幕開けの時を迎えました。
時代が変わるときは、人々の意識も変わり、大きな進化を遂げるチャンスだと言われています。
「決まった答え」がない時代、「成長したい」「よりよく生きたい」「毎日を充実させたい」というゲイに向けて、NEXTPLACE 代表 葛西 辰彦(かさい たつひこ)さんに語っていただきました。

これからのゲイのライフスタイル・働き方を考える

PROFILE

INTERVIEW 01ご紹介/プロフィール

葛西 辰彦

1988年、熊本県生まれ。
LGBTに関する現状や当事者をめぐる社会的課題に直面する。
これらの課題に向き合い、より良い世の中を目指すために、令和元年、NEXT PLACEを設立。

Twitter:@np_kasai

時代の波が大きく揺れ動く中、期待と不安が入り混じりながら日々を過ごされている方も多いと思います。「令和」という新時代を迎えましたが、これからの時代は、どのような変 化を遂げていくと思いますか?

葛西 辰彦
(以下:葛西)

いきなりスケールの大きな質問ですね(笑)これからの時代は、ざっくりと言うと「△から○の時代」へ変化していくと思っています。

△はハイアラーキーですね。ドイツ語だとヒエラルキーとも言いますね。よく下が搾取されて、上が甘い蜜を吸うみたいな感じで批判的に使われますが、わたしはハイアラーキーという仕組み自体は必要なものでもあって、それをどう利用するかが大切だと思います。

葛西

でも、現状はうまく機能していなくて、様々な問題が生じています。例えば、ほら、今年に なってジャニーズ事務所や吉本興業で、色々と問題が起こりましたよね。あれも、今まではうまく機能していたハイアラーキーの仕組みがどんどん限界が来ていて、少しずつ崩れてきていることが現れているんだと思うんです。

それに対して、○は円、もしくは球状ですね。三角形と違って、一番上のトップがないじゃないですか。 くるくる回しても、△みたいに一箇所がトップでなく、どの場所でも一番上になれます。 これは、一人ひとりがリーダーとなり、自分自身の役割を果たして、周りの人とお互いを尊重しながら繋がっていくイメージです。

例えば、チームで何かをする時に、みんなをまとめる人がいて、お金の管理をする人がいて、デザインをする人がいて、悩みを聞く人がいて、といったように、みんながそれぞれ自分自身の与えられた「役割」を果たして、一緒にみんなでまとまっていく。でも、誰が偉い!とかそういうものでもなく、お互いを尊重して、意見を言い合える関係です。

人と人との繋がり方が、時代に合わせて変わってきているんですね。

葛西

そういえば、時代の話なので、ついでに元号についても話をしてもいいですか? 今年の11月に「大嘗祭」が行われるじゃないですか。このタイミングで、天皇陛下が即位される んです。なので5月に「令和」が始まったんですけど、実は、本当の令和の始まりは、この「大嘗祭」からなんですよ。

令和の「令」って「人がひざまずいて、天からの声を聞く」という意味があるんですよ。もう 一つの漢字の「和」は、日本で生まれ育ったわたし達の精神性として、とても重要なこと だと思うのですが、この「和」していきましょうってことを神様から承ることだと思います。元号ってその時代を象徴しているように、令和の時代は「和」していくことが大事な時代にな るんです。パートナーだったり、仕事仲間だったり、家族だったり、今目の前にいる人たち と問題や課題を乗り越えたり、時には衝突したりしながら、最終的に和していく。ちなみに この「和」が冒頭でお話しした「○」にも繋がってますよね。

ちなみに△から○ってどの業界でも、同じようなことが言えると思うんです。じゃあ、このゲイの業界だったらどうなんだろうって考えてみると、ゲイの中でも、やっぱりハイアラーキー が存在していてるんですよね。

例えばゲイとして人生を謳歌するためには、ジムに行って、体を鍛えて、ガチムチ・マッ チョを目指してとか、短髪にしてみたり、そうやってモテることを追求していくゲイって多いと思うんですよね。モテたい欲求は人として当然で、とても素晴らしいことなんですが、こうあるべき、だけでもないと思うんですね。もっといろんな人達がいていいと思いますし、 実際には、すべての人たちが個々に魅力をもっています。でもこのゲイの業界で無意識的に作られてしまった「ゲイの理想像」や、「こうでなければならない」という考え方に囚われてしまう人たちが多い気がするんです。

葛西

ゲイアプリとかもそうですよね。ゲイの出会いとして、とても便利なツールなんですけど、みんながモテるために一生懸命で、ゲイのそういう部分ばかりを見ていると食傷気味になるというか(笑)でも、おそらく、今の人達って気づき始めていると思うんです。 「あれ、なんか違うかも?」って。

ちなみにわたしは、20代前半はモテるために必死でした(笑)ジムでトレーナーの仕事を していたのですが、営業終了後には暗闇のジムで鍛えまくってましたもん。で、鍛えた身体のベストショットを写真に撮って、アプリに載せて、ちやほやされたいと思ってました。 でもこんなことをしている自分自身に対して、「このままでいいのだろうか……。」って精神的に病んできちゃったんです。そこからは恋愛ドラマばりの重たい女みたいな感じで、とてもひどかったですね。もしタイムスリップができるんだったら、あのときのわたしをぶん殴 ってやりたい(笑) ものすごく情報に踊らされていましたね。当時のわたしは「自分」のことばかり考えていました。

ああ、なんかわかります。わたしにも身に覚えが…(苦笑)

葛西

これからは△から○の時代へと変化していくと話をしましたが、変化している最中の今の時点では、良くも悪くも個人主義の風潮が蔓延しているので、「周りのために」って言葉を 聞くと、「自分を押し殺す」ことに繋がるって考える人もいると思います。でも、その考え方も実は「自分」のことを考えているんですよ。「自分」さえ我慢すれば……ってほら「自分」 に矢印向いているではないですか(笑)自分のことばかり考えている時って、大体、体調が 悪い時なんですよね。それは、自分自身を大切に扱っていない証拠。大切な周りの人のために「自分」は良い状態でいないといけないんです。でも、あなたのいま目の前にいる人たちは本当にあなた自身にとって大切にしたいのかどうか。この部分がもし、自分の中でちゃんと噛み合っていなければ、ひずみがきて、きっと体調も悪くなることでしょう。 「誰と一緒にいたいのか。」これもとても大切なことではないのでしょうか。

わたし自身は、周りの人たちには恵まれている方だと思います。もちろん、関わっていく中で、嫌なこともあったり、自分の弱さに直面することや、なんでこんな苦労を被らないとい かんのだということだってあります。でも、それはきっと、色んな意味で試されていると思う んですよね。自分自身にとって必要なことだから、足りていないことだから、勉強させてい ただく、役割を果たしていく、そんな気持ちでやっていますし、今回のインタビューだって、 その役割意識で受けさせていただいています(笑)

自らの「価値と信用」を高め、応援される人間になる

葛西

これからのゲイのライフスタイル・働き方を考える上で、わたしは「応援される人間」になるってことが鍵だと考えています。例えば、現在はクラウドファンディングで企画を立てることで、応援してくれる人を募ることができるようになりましたね。クラウドファンディングのサイトを見てみると、いろんな企画がいっぱいありますよね。それでも、多くの人から応援 される企画もあれば、あまり応援されないものもある。その差って実は、その企画をする人がどのようなことを想い、その人が今まで周りのためにどれだけやってきたのか、なんと言ったらいいのでしょうか、、その人の「生き様」が大事になってくると思うんです。

私利私欲で自分のことばかり考えていたり、もしくは「自分なんかにはどうせ出来っこない」 ってセルフイメージが低い人間だと、周りからも応援して貰えそうにないではないですか。 周りから「応援したいな」って思われる人間になるって、とても大事だと思うんです。

歴史上の偉人たちだって、たった一人で事を成し遂げたわけではなく、記録には残っていないけど、その人のバックでたくさんの人が動き、応援してきたから、大きな事を成し遂げてきたわけです。別に歴史に名を残したいとかそこまでは思わなくても、周りから応援される人間になると、一人で何かをやるよりも、心強いですしね。だから、これからはライフ スタイルにしても、働き方にしても、その人の「生き様」が重要になると思います。

自分には何ができるのか、周りの人とどう向き合っていくのか。それを考え、行動していくことが自分の価値と信用が積み上がり、そして周りから応援されることに繋がっていくと思います。

「やりたいことが見つからない」という人はどうしたらいいでしょうか?

葛西

自分に何ができるのかわからない、やりたいことが見つからない人も多いと思いますし、 実際、わたしもそのような人をたくさん見てきました。 そんな人は、今、目の前にいる人達にとって役に立つことをやったり、向き合っていくことから始めていくべきだと思います。周りと関わることで、様々な役割を与えられます。 与えられた役割には苦手なことや、チャレンジングなものもあるかもしれません。でも、そこで「自分」という存在を挟まず、その流れに乗って、まずはやってみることが大事だと思います。役割を果たしていくことで、次の役割が回ってきて、そしてその次には……というように役割をこなしていくことで、もしかしたらやりたいことが見つかるかもしれないし、もし 見つからなくても、いつの間にか自分の出来ることが増え、自分の価値が積み上がり、ま た周りの役に立ち、喜ばれることで、信用も増していきます。時間はかかるかもしれませんが、即席でパッとインスタントに出来たものなんて、すぐに壊れてしまいますからね(笑)

今後取り組まれていきたいことについてお聞かせください。

葛西

一人ひとりがこれまで培ってきた価値と信用に対して、応援したり、応援されたりといったことができる場所を作ることが出来たらいいなと思っています。現在、オンライン・オフライ ンに限らず、こうしたことが実現できるプラットフォームを作っている最中なんですよ。このプラットフォームが何かしら形になって、ゲイの業界がよりより良くなっていくことを想像すると、ワクワクというよりも、肚から「よし、やってやろう!」と湧き出てくる熱いものを感じます。詳しいことはまだ言えないのですが、ゲイの業界を変えるつもりで、みんな動いていますので、楽しみにしてもらえたらと思います。

PROFILE

INTERVIEW 01ご紹介/プロフィール

葛西 辰彦

1988年、熊本県生まれ。
LGBTに関する現状や当事者をめぐる社会的課題に直面する。
これらの課題に向き合い、より良い世の中を目指すために、令和元年、NEXT PLACEを設立。

Twitter:@np_kasai